始まり

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皮肉にも、撮影は山下くんと2ショット。 不安で押しつぶされそうだけど、臆病な気持ちに負けないって決めたんだから…。 「山下くん、よろしくお願いします!」 「…あぁ、よろしく」 プライベートで避けられても、仕事ではちゃんと見てくれる。 ちゃんと応えてくれる。 それだけでも、泣きそうな程うれしくて。 「山下くんっ」 「っうわっ!」 山下くんの腕を強引に引っ張って、胸の中に飛び込んでみた。 カメラマンさんに、いいね―なんて言われたりして。 でも僕は、それよりも山下くんの温もりと柔らかい香りに、胸がいっぱいだった。 腕が解かれて、顔を見上げたら優しい表情をした山下くんがいて。 仕事だってわかってる、作りモノだってわかってるけど、期待しちゃう僕がいて余計虚しくて涙が滲んだ。 「あ…ちょっとコンタクトずれちゃったみたいっ……」 嘘、ソフトだから痛くない。 痛いのは胸の奥だけ。 ちょっと時間をもらって、トイレでコンタクトなおす…ふり。 ここに来るとき、怖くて山下くんが見れなかった。 「僕、やっぱり泣いちゃった…」 必死でごまかしたけど、絶対嘘だってばれてる。 とりあえず、涙を隠すため水で顔をバシャバシャ洗った。 タオルは…?って手探りで探してたらドアを開け閉めする音がして、 「はい、タオル」 「小山くん、ありがと」 「ってか手越にはタオルあげてばっかだな、オレ」 「ふふっ…ほんとだ」 優しい笑顔で、僕の湿っぽい空気をかえてくれる。 太陽みたい、なぁんて言ったら「クサっ」って言われそうだから、言わないけどね。 「手越最近ムリしてないか?…こないだだって仕事中に倒れたし、練習のとき休憩取らずに踊ってるってまっすーが言ってたし」 「やっぱ、一番後輩だしみんなの足引っ張らないようにしたいし…」 「誰も手越のことそんな風に思ってないよ。俺だって失敗たくさんするし、みんなだってそうだよ。…もっと先輩を頼りなさい!」 「僕、振り向かせたい人がいるんです」 「急に恋愛相談?…ほどほどにするんだそ。ムリしてるとこなんて相手だって見たくないだろうし、誠意を持って接すればきっと応えてくれるさ」 小山くんは前みたいに頭をポンポン撫でてくれて、 「笑顔でな」って撮影に戻っていった。
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