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「っ、う…ん…」
擽ったかったのか、手越の指がふるりと震えた。
それよりも、俺は自分がしてしまったことが手越にバレたのではないかと、内心焦った。
どうやら、まだ眠っているようだ。
俺にはまだ、手越に面と向かって自分の気付いてしまった気持ちを伝えられる程、人間が出来ちゃいない。
(「好き」だなんて、手越に言える訳ねぇだろ…)
手越の‘好き’と、
俺の、‘好き’は違う。
ちゃんと向き合おうと決めたのに、臆病な俺の心はまた逃げに入ろうとしてて。
―きゅっ
掴んだままの手越の指が、俺の手の中で動いて、そのまま俺の手を握り返した。
「っ…やま、したく…」
ゆっくりと手越の瞼が開いて、ベッドから体を起こし、真っ直ぐ俺を見つめた。
「…ごめんなさい。いつも山下くんには迷惑かけてばかりですよね…」
す、っと俺の手の中から手越の指が逃げていく。
途端に胸の中が苦しくなったけど、悟られないように目を伏せた。
「僕が、ひとり頑張ったところで何にも変わらないんです。こうして自分の身も守れない、みんなの足を引っ張ってばかりでっ…」
「…っ…」
急に言葉が止まった手越が気になって、俺は顔を上げて止まった。
手越が泣いていたから。
不謹慎だけど、涙が綺麗だと思った。
その涙に触れたくて、無意識に俺は手を伸ばして、手越の涙で濡れた頬に触れた。
「っ、やま、したく…」
「手越は、すごいよ。普通あんなヤツらに目つけられたら逃げんのに、お前はちゃんと向き合った。
なぁ、手越はどうして逃げないの?」
「…だって、やましいこと何一つないのに相手から逃げるなんて、自分から逃げるのと一緒じゃないですか」
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