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春休み。
それは、中学を卒業した俺にとって堕落するには最高の期間だった。
地元のそこそこ人気のある、自由な校風が売りの高校の試験の合格通知が先刻届き、肩の荷が下りた俺は妙な昂揚感に包まれていた。
だからだろうか。
接近する大型トラックに気付かなかったのは。
勿論、咄嗟に避けようとしたが、死への恐怖で身体が硬直していたし、
なにより俺にはマンガやアニメの様な馬鹿げた身体能力なんかは無く。
ききーっ、どん。
俺の身体は風に飛ばされ紙クズの様に宙を舞った。
───時すでに遅し。
この言葉が俺の今の状況に一番適しているだろう。
「………ちくしょう」
際限無く流れる紅い池を作りながら痛覚の無くなった身体で呟く。
「……これからだってのに…」
これから、普通に入学式やって、一度しかない高校生活を友達と送って。
あわよくば彼女作って、最初から楽しかった高校生活を更に楽しくして。
高校卒業したら、そこそこ給料が良い会社へ入社して、いつかは結婚して家庭を持って。
本当、これからなのに。
「………ちくしょう……」
その呟きを最後に、俺の意識は深い闇に墜ちていった。
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