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「…りょ、にい」
翔の妹のういが、まだ若干危なっかしい足取りで部屋を横切ってベランダに出てきた。
つまずいて転ぶ前に、ゆいによく似た可愛らしい女の子を抱き上げる。
「うい。元気にしてたか」
「はい」
澄んだ大きな瞳に俺を映して嬉しそうにうなずく。
くせのある柔らかい髪が頬に触れてくすぐったい。
まだ甘く懐かしいような乳児の匂いがする。
「あのね」
ういが小さくてふくよかな手を俺の頬に伸ばす。
「うい、りょおにいのおよめさんになる」
ういが桜の花びらのような柔らかく潤んだ唇を俺に押し当てた。
無邪気な可愛らしさが心の奥底に閉じ込めた想いを照らす。
一生消せない行き場を失くした想いを許すように包み込む。
不覚にも涙腺が刺激された。
年を取ったせいかな。
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