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「水村さん、電話。若葉保育園から」
院内携帯で呼び出されて、ナースステーションに急ぐ。
翔の容態に変化があったに違いない。
今朝は少し熱っぽく、朝食もあまり食べなかった。
「…はい。わかりました。
……すみません。
…ちょっと、何時になるかは……。
…はい。すみません。
よろしくお願いします」
予想通り、保育園からの電話は、翔の熱が38度を越え、咳も出ているので早急に迎えに来るようにという内容だった。
回診中でナースステーションには誰もいない。
師長にかけようかと院内携帯を手にすると、かける前に震え、
「水村さん。
802の笹間さん、嘔吐したからすぐ片づけに向かって」
ナースさんから指示が飛ぶ。
「あ…、はい。あの…」
「笹間さん、ウイルス性の腸炎らしいから急いで。
院内感染は厳禁よ」
緊迫した声音に、返事をする間もなく、電話が切られた。
アルコールと手袋とバケツと雑巾を手に、ナースステーションから出た。足早に802号室に向かう。
苦しんでいる翔の顔が脳裏によぎる。
作業チームは私を含めて3名だけど、うち1名の西村さんは腰を痛めて休養している。もう一人の曽根さんは、自分の仕事が増えるのをとても嫌がる。
翔。…ごめんね。
保育園から呼び出されるのは今週2度目。有給休暇ももうなくなった。
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