1369人が本棚に入れています
本棚に追加
「あのね、お母さん。
仕事が大変なのはわかるけど、翔くんにとって、
お母さんは一人だけなのよ。
忘れないでね」
保育園に着くと、もはや先生は呆れた顔を隠さなかった。
翔を迎えに保育園に行けたのは、電話があってから4時間後。
既に17時を過ぎていた。
担任の先生に頭を下げて、翔を引き取る。
翔はぐったりしていて触っただけで熱が高いのがわかる。
歩く元気がなさそうなので、抱き上げて園を出た。
翔は小児喘息でしょっちゅう熱を出す。
一晩中咳が止まらないことも多い。
体重は10キロしかなく、たいてい2歳に、下手をすると1歳に間違えられる。
健診では「発育不全」と言われ、定期的に診察を受けている。
最近では、「口数が少ない」「子どもらしい無邪気さが見られない」と指摘され、心因性の可能性が高いと言われている。
タクシーを呼んで、18時まで診察をしてくれる病院に向かう。
このまま家で寝かせてあげたいけれど、明日からは休むと欠勤になる。
治療証明があれば病後児保育室に入れてもらえるから。
…翔にストレスをかけているのは私だ。
翔は要求をしない。
びっくりするくらい静かに「わかった」と言う。
本当は、もっと翔のそばにいて、翔のわがままを聞いてあげたい。
でも、働かなくちゃ翔の生活が守れない。
…どうして私は、こんなに無力なんだろう。
最初のコメントを投稿しよう!