machi.1

7/11
前へ
/260ページ
次へ
昼過ぎまでは小雨だったのに、今はかなり激しく降っている。 渋滞しているのか、タクシーはなかなか進まない。 苦しそうに息をしていた翔が、突如、吐いた。 「あ~あ…」 車内に吐しゃ物特有のにおいが充満し、運転手さんが露骨に嫌な顔をする。 「上田医院でしょ? 後、少しだから降りてくれる? ちょっと掃除しないと使いもんになんないからさぁ」 汚したところはできる限りハンカチで拭いてから、翔を抱えてタクシーを降りた。 激しく打ち付ける雨。 翔を濡らさないように上着をかけて、 傘を首で支え、病院に向かって歩く。 あっというまに足元からずぶ濡れ。 車で5分の距離は、歩くと長い。 上田医院についた時は、すでに18時を過ぎ、雨と吐しゃ物にまみれた私の前で、受付の窓は固く締まっていた。
/260ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1369人が本棚に入れています
本棚に追加