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ぼぉっとタバコを吹かしていた龍仁が、ふと現実世界に戻って来ると、龍仁の近くで数人の子供達の楽しそうにサッカーをして遊ぶ声と足音が聞こえてくる。
仰向けのままパネライの腕時計で時間を確認した龍仁は、そろそろ帰ろうとムクッと上半身を持ち上げた。
その瞬間、龍仁の止めたハーレーにドンッとサッカーボールが当たる。
ゆっくりと立ち上がり振り向いた龍仁に、三人の子供達は時が止まった様に固まり、青ざめている。
「やばっ、あの変なオッサンだっ……太一、おまえが取れなかったせいだろ。おまえ行って、取って来いよ」
「そうだそうだ、健ちゃんの言う通りだよ。おまえのせいだろ、早く行って来い。そしたら、もう帰っていいぞ」
二人はそう言うと、太一をドンッと押した。
この太一と呼ばれた少年は錦 太一と言い、八才の太一は同級生のこの二人より小さく、色白で軟弱そうに見える。
母親しかいない太一は普段からイジメられ、今日も無理やり連れて来られていた。
「えっ!ボクがっ……」
太一は振り返り怯えた顔で龍仁の方へ向き直り、ゆっくりと顔を上げ龍仁に視線を向ける。
太一はもう帰りたい一心で、勇気をふりしぼり一歩一歩龍仁に近づいていく。
龍仁はハーレーに当たり自分の足元に転がるサッカーボールを拾い上げると、太一に向かって近づきハーレーの傍らに立つ。
龍仁の鋭い眼光が太一を見つめる。
太一は身体がビクンッとびくつくと、太一は龍仁を見上げたまま口をポカンと開け固まった。
「うわぁぁっ!!殺されるぅ~!!!」
その瞬間、後ろに いた二人が叫びながら走って逃げ出した。
龍仁は一瞬訳がわからず困った表情をすると、太一に向かってサッカーボールをつき出す。
「なっ!なんだぁ、あいつら……おいおい、おまえもそんなに固まんなよ。別になんもしねぇよ」
龍仁はクスクスと笑いながら太一に向かってそう言うと、ニコリと笑った。
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