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その笑顔を見た太一は魔法が解けたように表情が和らぐと、龍仁に近づきサッカーボールを受け取る。
「おまえらの話し声聞こえてたけど、おまえあいつらからイジメられてんのか?」
龍仁はボールを手に取った太一に言葉をかけると突然、太一の目から大量の涙が溢れ出す。
太一は龍仁の低くて優しい穏やかなトーンの声に、初めて会ったはずの龍仁の前で、なぜか自分でも気づかぬうちに涙が零れていた。
「おっ、おいっ。なっ……どっ、どうしたんだよ…」
突然泣き出した太一に、今度は龍仁が慌てる。
暫くして太一の涙が止まるとハーレーの傍らの地べたに並んで座り、龍仁はライダースのポケットから缶コーヒーを取り出すと太一に差し出す。
「ほれ、これ飲めよ……後、タバコ吸ってもいいか?」
龍仁が笑顔でそう言うと、太一は龍仁が開けてくれた缶コーヒーを受け取り頷く。
「おまえ名前は?」
龍仁はタバコを取り出し火をつけフゥッとはきだすと、両手に缶コーヒーを包む様に持って俯く太一に尋ねる。
「錦 太一(にしき たいち)……」
太一は恥ずかしそうにボソリと答える。
「ふぅ~ん、太一か……」
太一はぬるくなった缶コーヒーに口をつけて一口コクンと飲んだ。
「うげっ!苦いっ……」
太一は顔をしかめ舌を出して言うと、缶コーヒーを持つ手を龍仁に向かって伸ばす。
「やっぱ、太一にはまだ無理だったか」
クスクスと笑いながら太一から缶コーヒーを受け取ると、旨そうに缶コーヒーを飲みタバコを吹かしている龍仁を、太一はクスッと笑い眺めていた。
「あのね。ボク、お母さんしか居ないんだ……」
暫く沈黙が続くと静かに話し出した太一の話を、龍仁はただ黙って聞いている。
話し終わると、また涙が溢れそうになっている太一の頭をポンッなで、龍仁はスッと立ち上がる。
「よしっ、母ちゃんが心配すんといけねぇ。そろそろ帰るかっ……そうだ、太一。おまえバイクに乗った事あるか?俺が途中まで乗っけてってやるよ」
龍仁はズボンの尻をポンポンと叩くと、笑顔で太一に言った。
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