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派出所に向かって一台の軽が近づいて来る。
軽は派出所の前で急停車すると、中から一人の女性が慌てた様子で降りて派出所に駆け込む。
「太一っ!」
息を切らしながら叫んだ女性は、太一の母親である錦 由香里(にしき ゆかり)、年齢は28歳で川上村の役場に勤めており、ショートカットの髪に紺のスーツを着ていて、少し青ざめているがそれを差し引いても目のクリッとした色白の可愛い女性だ。
由香里はツカツカっと派出所のカウンターの中に進んで行くと、椅子に腰掛けていた龍仁の前で仁王立ちすると龍仁の左頬をバチンッと叩いた。
由香里の頬に涙が一筋伝うと、なにも反応しない龍仁をもう一発叩こうと振りかぶったところを、慌てた警察官と太一が止めて事情を説明する。
「俺はもう……帰っていいんだろ?」
説明を聞き誤解だとわかると、由香里は慌てて顔を真っ赤にして龍仁に頭を下げて謝るが、龍仁はそれを無視する様に立ち上がり派出所を出ていきハーレーに跨がり去って行く。
「なんなのあの人っ!そりゃぁ勘違いして殴った私が悪いけど……あの態度は無いでしょ!」
――あの人たしか、最近越してきたあの仕事もせずにフラフラしてる人よね……顔はなかなかだったけど、人として最悪だわ……
龍仁の去り行く背を見つめ由香里はムカついて文句を言うと、自らも警察官に頭を下げ太一と派出所を後にする。
車の中で、太一はまた龍仁に会いたいと思い、由香里は二度と龍仁とは関わりたくないと考えていた。
母子は真逆のベクトルを向いているが、頭の中には二人とも龍仁が浮かんでいた。
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