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そしてひとりの鬼神の民がその光景を見ていた。怪訝した色を浮かばせる瞳は一点に鬼姫を睨む。
その視線の主は先程の会議でルヴィ・アラードについてを長に問い質した鬼神の民ローギリシス・フラトネルはその双眸に憎しみを宿している。
彼は村の中では随一の剣士であり長直属の部下の1人だ。と言っても彼等は防衛が主な仕事で自分達から攻めることはない。
その為魔神の民や女神の民からはお咎めがないのだ。
しかし、ルヴィ・アラードだけは特異であった。村を出て殺しを行う。
その行動が引き金となって戦争になってはならない。だから早急に処罰せねばならないというのに、長はそれをよしとしなかった。
また、もう一つの要点がある。
その要点とは鬼神化についてだ。ルヴィ・アラードの鬼神化は他の者たちとは違い莫大な能力と魔力を発生させる。それが才能とは思えない。
「よく気付きましたねぇ。ならば貴方に仕事を差し上げましょう」
突然後方から黒雲が発生し、中から老師と少女が1人出てくる。その少女を見た時、ローギリシスは自分の目を疑った。
「イーリス、頼みましたよ?」
「はい……おじさん、私が力をあげるわ。ほしい?」
イーリスと呼ばれる黒髪の少女は小悪魔のような微笑みを見せる。その姿や顔立ちはルヴィ・アラード瓜二つであった。違うと言えば基調としている色で全てが黒を基調とした服や髪、瞳は赤黒い光を放っている。
「な、何が願いだ?」
ローギリシスは動揺していた。禍々しい黒の少女に対して恐怖心を抱き後ずさる。普通は何者かを問うものだが生憎その思考まで辿り着けていない。
しかし、悪魔は待たずに一歩ずつ近寄ってくる。ローギリシスは立ち尽くしていた。まるで目の前の絶対的な力に畏怖しているかのように。
そしてついには黒の少女イーリスがすぐそこに到達した瞬間、ローギリシスは我に返る。危険を察知し一気に逃げ出そうとしたのが彼の最後であった……
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