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……
人という存在を捨てるとはどういうことなんだろうか?どのような感じなのだろう?
目の前のローギリシスは人というものを捨てて私を殺そうと首筋に力を込めているようだ。もはや見るに耐えない存在でしかない彼を少し哀れむ。
「……」
もうやるしかないのだ。殺してしまえばと思っていた自分が心の奥底では殺すことに対して躊躇いを抱いている。でも今ならちょっとだけ、わかる気がした。ゼルに抱きしめられた身体と心、その感触に酔い痴れる。
ほんの小さな幸せがそこにあった。見つけられた。
こんなことで捨てるものか!……
魔力を流し出す。身体の血流を利用して加速し増幅させ圧縮していく。そのサイクルを多重に生み出して収束、身体の感覚が焼ききってしまいそうになる程の魔力が身体を流れ始めた。
流れ始めた瞬間にローギリシスだったものを蹴り飛ばす。ただ知性もないケダモノに対しての一蹴は強烈、相手は思わず私の首筋から手を放す。
そして、地面にその異様な肉体を落とす。多分痛みはないのだろう。すぐに態勢を立て直してまた私に飛びかかろうとする。
……
一方でルヴィは即座に立ち上がる。しかし、今までとは何かが確実に違う。
「……今楽にする」
冷たく冴えた言葉はある意味の救済を含めているようにルヴィは言う。恐怖心を抱かせる内容に思えるそれはなぜか温かく優しい言葉、彼女はこの時……血髪の鬼姫をやめたのだ。
瞳を閉じる。荒れ狂う魔力に共感させるのは剣、この白の剣は私を写す鏡だと思っていた。
そして一呼吸、瞳を開く。その色はもとのルヴィの赤紫の色をしておらず、黒色に変色している。これが鬼神の民にのみ扱える気道?能力"鬼神化"である。
ルヴィの周囲は赤色の靄がうねり逆巻いている。身体に押さえ込んでいた魔力は少しずつ滲み出ていた。
……
刹那、ケダモノの胸を白い閃光が貫く。戦いは皮肉にも一瞬、ルヴィは何も意に返さずローギリシスだったものを瞬殺した。
真の臓器の鼓動が制動をやめていくのがわかる。そして、みるみる身体の変貌が元に戻っていき、気づいた頃にはローギリシスは元の人間の姿に戻っていた。
彼の身体にまとわりついていた黒い何かも跡形なく霧散した。
「きゃあああ!」
全てが終わりを告げた時、また鬼神の民の悲鳴が村中に響いた。
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