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若く高い女の悲鳴で一斉に村は騒然とする。その悲鳴の主が誰かなんて関係ないのだろう。次々と村人達はルヴィを囲みだす。
そして、あらゆる武具を彼女に向けた。
「ローギリシス!」
「やはり危険な奴だったか。ルヴィ・アラード!」
恐怖と戦慄、拒絶と憎悪、耳障りな雑音を聞いているかのような虚無感が彼女を蝕む。しかし、ルヴィはそれよりも違う事に意識を集中する。
見られている?……
神経を尖らせるように鋭く研ぎ澄ます。鬼神化は解いていない。だからこそ見つける事が出来る筈だと確信に近づける。
何度も感じてきた視線、何度も味あわされた人を捨てた存在を斬殺する感触、今度こそは……
ルヴィ・アラード"血髪の鬼姫"が鬼神の民の為にしてきた殺人の真相は、人を襲う人を捨てた存在を斬ること。それは長から告げられた命だった。
そして他言無用の単独行動を強いるものでもあった。
それ故、村人達はルヴィをただの種族の面汚しと見ていたのだ。
感覚が視線の根源を捉えた瞬間、ルヴィは村人達の列を飛び越えて行く。その時の怒号など聞く気もなく疾駆、森の方へ駆けていった。
森の深緑とじめっとした湿気、生い茂る草木を意に返すことなく平然と飛び渡る。視線を向けていたであろう存在は逃げる様に森の奥へと進んでいく。
けれども一度繋がりが出来ればルヴィから逃げることはできないだろう。
徐々に感覚が狭まった頃、ルヴィはその追跡を一時的に静止させる。見失ったわけではない。
相手が逃亡をピタリと止めたのだ。逃げ切れないと踏んでそうしたならまだ説明がつくだろう。けれど何かが違う気がする。
そして、目の前にある洞窟が不気味な寒気を吐きながら存在していた。
「これは……罠?」
あっさり推測してみるもののルヴィはまた一歩進行を開始する。今までにこういうことがなかったか?と言うと、正直嫌という程あった。
殺人鬼の汚名はさすがらしく兵隊やら何やら色々なもの達に狙われていた。
しかし、今回の相手はあのローギリシスに呪いをかけたやり手でルヴィ自身が何度も仕留め損ねている存在だ。
気を抜けば一発であの世に送られると想定して洞窟の中に足を踏み入れた。
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