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暗闇と湿気が濃厚な洞窟はまさに不気味そのものだった。そんな中、私は躊躇わずに進む。
相手は未だ移動せずに待ち伏せていた。
足場の悪い岩場は軽快に飛び渡る。水滴の落ちる音が響いているだけで他に音はない。
どの位進んだかわからないが、やがて明かりが灯っている開けた場所に到達して身構える。
「ここか。出て来い」
確信に満ちた発言を薄暗い洞窟に放ち周囲を確認する。
まぁ……出て来いと言われて出るわけはないだろう。相場は決まってる。
諦めて剣を抜こうとした瞬間、それは現れた。
……
支度は万端だろう。全ては順調で父の理想に近づきつつある。これは世界を歪ませかねない策謀で、いや……もう既に歪んでいる。
あの人が神ゼウスから天宝であるゴッドクロニクルを奪取した時から狂っている。
「イーリス?大丈夫か?」
黒髪の少年は不安そうに私の顔を覗き込む。彼は私の何なのか思い出せない。知らない人間、けれど彼は私を親しそうに寄り添い、私の手を優しく握り微笑んでくれた。
嫌な気分にならない。寧ろ何か温かいものを感じる。
あなたはガレスが生み出した人間?
「違う。俺は……君の魔物だ。イーリス」
「……」
嘘ね。貴方はもっと優しくて綺麗な心を持っていたように感じる。
直感というのだろうか。私は彼の事をもっとよく知っているような錯覚、そして信頼による安心感がある。
彼は私を裏切らないと不思議なほどに確信できた。
「……貴方の名前は?」
自分から口に出した言葉がわけがわからない。私はガレスの人形のはずなのに、その現実から逃げ出そうとしている。
なぜ私はあの人に抗おうとするのか?貴方は私をどうしてくれる?
……自我が芽生え始めた瞬間だった。
「俺はキジルだ。お前を守る牙になる魔物だから、頼ってくれ」
「キジル……約束、しよう?」
私の言葉に彼はなんだろう?と言った顔をする。そして、少し笑っていた。
何かを感じて嬉しそうに笑みをこぼしている。
何がそんなに嬉しいのか?私はわからない。
だって、まだ人形だから……
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