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真っ暗な闇の中、イーリスは優しく微笑んで約束しようと俺に言った。優しいその表情は過去に見た彼女と同じ。
少しずつ、戻ってきている。着実に……
その事実が俺を繋ぎ止めてくれる。ガレスに反逆を示さないのも、イーリスが居てくれるおかげで、それを失うわけにはいかない。
俺はこの黒の少女を守るために過去を捨て去った。もう人ではない。
後悔はしていないはずだ。
「後悔、してる」
不意に少女は変な感応で毒づく。鋭いところなども相変わらずで少し嬉しい。
カタカタカタッ!
そんな微笑ましい世界をぶち壊す足音、まるでもうお終いだから諦めろという意思の現れなのだろう。
「イーリス、策はできてますかねぇ?」
見るのも腹立たしい老公がイーリスの後ろに顕現した。多少不気味なその容姿と共に計り知れぬ闇を潜ませた瞳は何を企んでいるかわからない。
奴の名はガレス、この世界の根源を歪めた張本人であり、俺が憎むべき元凶だ。今からでも殺しにかかりたい。いや、今がその時で……
ガバッ!
「イーリス、自分の使役する怨霊に心を開いてはだめですねぇ。彼は貴方とは違うのですから」
「……これから戦うのよ。なら、私と同じと言っても過言ではありません。それより、姐さん達はどうしました?」
俺が力を練って闇討ちしようとしたのをイーリスは庇う様に俺を抱きしめる。胸元に顔を押し付けられて少し息苦しい。
しかし、苦痛はこの感触だ。柔らかくて豊満な胸は夢枕そのもので昇天も近い。
前のイーリスなら平手打ちされただろう。
「家出してしまいましたねぇ。まぁ別に構いませんよ。いずれ戻る運命ですからねぇ」
「ルヴィ・アラードを手に入れるのは容易い。お気になさらずとも大丈夫です。それよりも御自身の身を案じてくださいな。御父様?」
「心配はいりませんよ。計画は順調ですからねぇ。では頼みますねぇ。イーリス」
二人の会話は終わりを迎えたが、少し重苦しい雰囲気になった。ガレスを父と呼ぶことが疑問なのだ。
あいつはイーリスの記憶を書き換えたのに……
「来たわ……」
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