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「やっぱり、繋ぎ目んとこがずれちまってるんだな」
男は私など目に入らない様子で奪い取った耳飾に見入ったかと思うと、すぐさま分解し始めた。
「この型は、下手な奴がやるとこうなるんだよ」
男はまた独り言の様に呟いた。
「これは、石も、ヤワだけどな」
不揃いな緑色の石のかけらが色褪せた麻布の膝に転がって揺れる。
男はかけらの一つを左手に摘み、金具を右手に持ったところで、今度は私に目を向けた。
「灯り」
私はすぐさま立ち上がって卓上のランタンを取った。
名前も知らない男に自分の持ち物を壊されたことも忘れて。
「もっと」
男はランタンを掲げた私にはやはり目もくれずに告げる。
鋭く光る眼差しの全てが、手にした安っぽい緑の石と痛んだ金具に注がれていた。
「もっと手元に」
私は恐る恐るランタンを男に近づけた。
「そこでいい」
私はその位置からランタンが揺れない様に両手で支える。
腕の筋が思い出した様に鈍く痛んだが、男が見ていないと分かっていても、なぜか顔には出せなかった。
外で降り出した雨の軒を打つ音が聞こえてくる。
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