降雨

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「綺麗だ」 男の目の中で、限りなく白に近い青の炎が揺れる。 「凄く」 しめやかな雨音に紛れるくらい密やかな声だったが、私は縛られた様に動けなかった。 「どこで、これを?」 男は今度は私の肩を掴むと、勢い込んで尋ねる。 「片割れだけでも、こんな値打ち物の翡翠は……」 私は思わず、吹き出した。 「ああ、これ?」 両手にランタンを抱えたまま、肩をちょっと捻ると、男はあっさり手を離した。 「古い方は、もともと持ってたのよ」 私はそのまま窓際まで歩いていく。 元より窓は固く閉められているが、近づくと外の雨音が一層強く聞こえてきた。 卓子(テーブル)の上にそっとランタンを置くと、リン、と右耳で幽かな音がする。 男が見惚(みと)れていたのは、私ではなく、この「大哥(にいさん)」だったのだ。
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