けれど

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「正直な話、俺もちょっと忘れてたんだけど、小四のときだっけ。俺が向江を昼休みに遊ぼうって誘ったの覚えてる?」 もちろん、忘れるはずがない。今でも断ったことを後悔しているのだから。 「俺、あの時少し向江のこと馬鹿にしたんだよ。どうせ、スポーツなんてできないから来ないんだろうなって。でも、本当は、勝手に悔しがってただけ。こいつ、断りやがったって。俺が誘ったら来るだろうって本当に勝手に、決めつけてたんだ」 ふと、地面を眺めていた倉田がこちらを向いて一瞬目が合ったがすぐ視線は戻った。 「そしたら、体育の授業かなんかで、俺がバスケしてるときに向江が一人で、シュートの練習?してて。ボールが綺麗に入るの見て、上手いって思っちゃって。俺だって、クラスじゃできるほうだったんだけど、やっぱこう、悔しくて」 たまにちらりと横目で俺を見ようとするのがわかる。それで俺が倉田をずっと見てしまっていることに気付き、俺も地面に視線を移した。 「それから一層向江のこと誘えなくなって。負けるのが、怖かったんだと思う。そしたら二学期になって偶然、向江がマンションの近くの公園でデカい人と三人でバスケしてるの見かけて、俺また勝手に、普段からあんなにバリバリでバスケしてるなんて卑怯じゃんってなって。一人で闘争心燃やして一人で悔しがって、一人で、向江に嫉妬してさ。クラス変わったら向江、急に明るくなって尚更差を見せつけられた気がして、いつの間にか身長も越されてるし、もうダメじゃん、敵いっこないじゃんって思った。俺、向江が嫌いとかじゃなくて、ただ単に悔しかっただけで、羨ましくもあったんだと思う。だから、俺が間違ってたんだ」 「ごめん」ともう一度倉田は謝る。倉田が謝らなきゃと言う意味がわかった。俺は嬉しかった。なにが嬉しいのかなんてわからない。それでもいろいろな思いの詰まった話を聞いて満足だった。俺も話した。子どもの頃の話そうとすると息が詰まる感覚。自分より身体が大きい人に対する恐怖心。“たくみ”への憧れ。バスケットボールを始めた理由。 「今となっては、こう、人前で言葉に詰まるってこと、ほとんどないんだけど。どうしてか、倉田と話す時だけは少し出ちゃって。やっぱり、特別、なんだと思う」 倉田と目が合った。照れたように笑うので俺もなんだか照れてしまった。
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