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女はザグの隣に腰かけた。
「なにか飲むか」
「では、お茶を頂けますか」
「もちろんだとも」
女にひとつ返事で頷くと、ザグは右手の手のひらを上に向けた。魔力が集まり、あっという間にティーセットが現れた。
左手でテーブルの上にあったワイングラスを消すと、ザグは女にお茶をいれた。
「ザグさま、ありがとうございます」
ザグは微笑んだ。
女も微笑み返し、一口飲んだ。ザグも続いて飲み、女が切り出すのを待った。
やがて、女が口を開いた。
「ザグさま、戦はお止めくださりませぬか」
ザグは答えなかった。この問の答えは、既に女に答えたことがあったからだ。
女はまた言った。
「戦をせねば、ならぬのですか」
「ならぬ」
静かに答えた。女は悲しい顔をしていた。
「このロコネの願いにございます。今一度お考え直しくださいませ」
ロコネは悲痛な声で訴えた。ザグは悲しそうに見るだけで、なにも言わなかった。
「人と魔族、姿かたちは違えど、同じ尊い命を持つもの。それらを奪い合って何になりましょう」
「ロコネ、ロコネ。わたしとて好きで戦をするのではないのだ。わたしたちは静かに生きていきたいと思っているのだよ。けれども、住みかを終われ、同胞たちを殺され、一方的にやられるのはいかんのだ。我々の誇りに誓って」
ザグはまた口をつぐんだ。ロコネもまた、黙っていた。
カップの紅茶がだんだんと冷めていく。
「ザグさま」
ロコネはザグを見つめた。ザグもまた、見つめ返した。
両者の視線は真っ直ぐに相手を見つめていた。その瞳には愛しい気持ちが浮かんでいた。
「ロコネは、ザグさまをお慕いしております。この身に収まりきらぬほど深い愛を捧いでおります」
「わたしもお前を愛している。この身は内なる情愛の熱さで焦がれんとしているほどだ」
「ロコネは心に決めました。ロコネは愛するあなたと生涯を共にしたく思います。種族も、なにも関係なく!」
「おお、おお、ロコネ。さすればわたしはお前を生涯愛すとこのザグの名に誓おう。お前はわたしのものだ。死しても、わたしのものだ」
「ザグさま、ロコネはいつまでもザグさまのお側に……」
二人は熱く抱き合った。
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