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誰かに呼ばれた気がした。
「ネルフェさま」
今度は確実に聞こえた。
閉じていた瞳を開けると、白系で統一された書斎が見えた。先程の夢とガラリと変わって、目が眩んだ。それも、一瞬のことであったが。
その中に、見慣れた姿を見た。白衣を着た青年は、呆れた顔をしていた。ため息をひとつつき、ボサボサの髪をくしゃりとした。
「ネルフェさま、また寝ていらしたんですか」
ネルフェは苦く笑った。大分笑顔で居続けることに慣れてきたものだ、とふと思った。こんなことを考えるなんて、あの頃の夢を見たからだろうか。
しかし、少しばかりシファの気配に気づくのが遅かったようだ。なかなかわたしも平和ボケしている。用心せねば。
人間という生き物は、信用してはならぬものなのだから。それが、ザグとして生きていたなかで一番に学んだことであった。
「あんまりサボっていると、また堅物なじい様方からなにか言われますよ。あいつら、新入りいびりが大好きだから」
「おやおや。シファこそ、そんなことを口にしてはいけませんよ。あなただって、十分な肩書きがあるじゃあないですか。どこの壁に耳があってもおかしくはないのですよ」
ネルフェはデスクに置いてあった空のマグカップを手に立ち上がった。
シファはそれを目で追いながら言う。
「大丈夫ですよ。だって、ネルフェさまがサボるときは絶対に人がいませんからね。バレるかどうかはともかくとして」
「お前も言うようになりましたね。コーヒーを飲んでいきますか?」
ふふんと得意気に鼻を鳴らすシファは、全くもって似合っていなかった。本人にそんな気はないのだろうが、ボサボサした髪と大きな丸目がねのせいか、どうにも間抜けに見えてしまう。ネルフェはこっそり笑った。
シファは自分が笑われているなど気付かず、是非、と答えた。
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