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インターホンの間延びした音が、部屋に響く。 応答はせず、そのまま玄関の鍵をガチャリと開け、扉に手をかけた。 開いたドアの向こうに、佐伯が見えた。 その顔にはいつもの余裕なんてひとつもなくて、焦りのような色を滲ませていた。 あぁ、こいつもちゃんと普通の男なんだなと、なぜか私はホッとした。 でもそれは一瞬のことだった。 鼻先を、佐伯の甘い香りがくすぐる。 ふいに訪れた強くて優しい温もり。 佐伯の肩越しに玄関のドアがゆっくりと閉じていくのを見ると、私は静かに目を閉じた。
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