八 仕事の話

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これから仕事を続けていく上で、いろんな経験は役に立つ。 そういう意味では雑務をやらせるのも無駄ではないのだが。 俺の下というのが、変化がなさすぎだ。 「その間、熊谷さんに宮下をお願いできますか?」 彼女はおっとりとした物腰ながら、不思議と仕事の回転が速い。 二つのことを同時にこなせる、女性特有の能力もさることながら、人付き合いというか、根回しが非常にうまい。 仕事は一人でするものではないから。 課内はもちろん、他の課、他社の人たちとうまく渡り合っていかなくてはならない。 それが熊谷さんは秀逸だから。 宮下に学ばさせるには、絶好の機会だと思う。 寂しいとか、 そばにいたいとか、 そういう個人的な心情を仕事にもちこむのは、ためにならない。 宮下はまだ真っ白なスポンジだから、今のうちにたくさんのことを吸収して、成長するべきだ。 そしていつか、あいつの特性にあった仕事環境に送り出してやる。 それが『先輩』としての俺の仕事。 そう思っていた。
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