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「それで先輩のほうは?」
急に明るい声で、宮下が話題を変えた。
正直それどころではなくて、かいつまんで話をする。
要はひと月ほど、俺と離れて仕事をしろ、と。
そういうことだ。
案の定、一瞬、宮下の顔が曇った。
ただでさえ唯香のことで、なんというか、漠然としたもやもや感があるというのに。
ひと月とはいえ、違う仕事になるのは俺だって辛い。
でもそれは言えないことだから。
公私混同はしないと決めたのだ。
このまま、宮下とずっと一緒に居られたとして。
結婚とか出産とか、俺にはできないことがあるわけで。
それは仕方のないことだとわかってはいても、申し訳ない気持ちもしてくる。
だからこそ。
俺にできることは、何でもしてやりたい。
「その間は、熊谷さんにいろいろ教えてもらえ。いい機会だからな」
課長の言葉に甘えて、宮下を手元に置いておけばよかった。
そう思ってしまう弱い自分を振り切るように、笑顔で告げる。
宮下もバカじゃないから、俺の意図がわかるだろう。
「はい。がんばります」
ほらな。
ちゃんと笑ってくれた。
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