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「…で、輝ちゃんに謝ってくれるのか?」
「いやです」
口に出してから、はっとした。
嫌だ、なんて言うつもりは全くなかった。
普通に頷きここは離れようと思っていたのだ。
おれよりも背の高く、体つきのいい彼らには、どうあがいても力でなんて敵わないのだから。
どうして嫌、と言ってしまったのだろうか。
ご主人様に好かれる荒田さんに、おれは醜く嫉妬して。
良いようにされたくなかったんだ。
心の中までは、嘘はつけない、というやつで。
いつもなら、そんなポロっと言ってしまうなんてこと、絶対にやらないのに。
「っ、貴様っ!」
「ぁうっ」
せっかく、夏川さんが弄ってくれた髪を掴まれて引っ張られる。
「土下座しろって言ってんだろ!」
…そこまでは、言ってなかったんだけど…。
押されるように突き飛ばされて、壁に体を打ち付ける。
思いきり強打した背中が、ジリジリと痛んだ。
「…謝ります。すみません、きちんと、荒田さんに言いますから…」
痛みを押さえながら言った言葉は、震えていた。
「初めからそう言えば良いんだよ」
おまけ、だとでも言うように踞るおれの横腹を蹴る。
避けるなんて芸当も、ガードも出来なくて、もろにくらってしまった。
ゲホゲホと咳き込むおれを横目に、大声で笑いながら去っていく。
痛みで、何も考えられなかった。
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