文化祭準備の日。

8/11
前へ
/217ページ
次へ
校舎の壁に背中を預ける。 せっかく夏川さんがセットしてくれた髪は、見る影もない。 ああ、ご主人様に見せたかったな。 なんて、ほんの少し現実逃避してみたが、痛みは消えてくれない。 踞るように腹を抱えれば、ザッと砂を踏む音が聞こえた。 「…直紀…?」 ハッと顔を上げれば、目を見開いた真倉さんが。 見られてしまった。 どうにか誤魔化せないかと、思考を巡らせるが、無理だろう。 「大丈夫か?」 「い、言わないでください!!」 半ば真倉さんの言葉を遮るように叫ぶ。 そのせいで、蹴られた腹に響いた。 「ご主人様には、言わないでください。お願い、します…」 頭を下げる。 なんて、不格好。 なんて、醜い行動。 それでも、ご主人様に無駄な心配はさせたくない。 「分かった。言わないさ、誰にもな。とりあえず、保健室に」 「ありがとうございます…」 立ち上がるが、お腹が痛くて、とても普通に歩くことは出来そうにない。 顔を歪めてしまえば、真倉さんは「ああ」とおれを抱き上げる。 姫抱きで。 「背負うのは、痛いだろう?」 確かに。 でも、何度かされているけど、やっぱり姫抱きは馴れないな。 真倉さんの手際の良い手当てのお蔭で、痛みは和らいだ。
/217ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3508人が本棚に入れています
本棚に追加