新入生歓迎式の日。

3/15
前へ
/217ページ
次へ
夏川さんはメモを開き、前を見据える。 こういうところを見ると、やっぱりこの人もいい家柄の人なのだと実感する。 『はぁい、じゃぁルールを言うよぉ』 語尾を伸ばすのは相変わらずだけど、夏川さんは普通に話すことも出来るし。 だって、髪を切ってもらった時は敬語だったから。 『鬼ごっこは捕まえる側と逃げる側に別れてやるゲームだよぉ』 隣にいる百瀬さんはうとうとしているようで、目を瞑っている。 『逃げる側は新入生と生徒会から2人ねぇ。生徒会の2人はぁ、直紀くんと弥生が出まぁす』 生徒が驚きの声を上げる。 え、おれも知らないんだけども。 『他の2、3年と残りの生徒会が捕まえる側だよぉ』 驚いたまましばし固まれば、右手をぎゅっと握りしめられた。 横を見れば百瀬さんがふわりと笑みを浮かべている。 「がんば…ろう」 不覚にも、その姿がとてもかわいく見えてきゅんとした。 「はい」 『ここでぇ、毎年恒例のぉ頑張った人へのご褒美発表いえーい』 夏川さんが手を叩けば生徒たちも嬉しそうに顔を綻ばせ手を叩く。 『多く捕まえた上位5名とぉ逃げ切った人にはぁ、3つの中からご褒美を選んでもらうよぉ。1つは生徒会の誰かとデート1日ぃ。もう1つはぁ、授業1ヶ月間免除ぉ。最後はぁ、食堂3ヶ月間無料だよぉ!みんなぁご褒美取れるように頑張ってねぇ!』 以上、と言うように夏川さんは手を振ってから秋月さんにマイクを戻す。 『では、注意事項を書記から。弥生』 「ん」 話すことを苦手とする百瀬さんには、一番楽なところを担当してもらっている。 おれは初めてのため、何かを言うという作業はない。 『故意、傷付ける…だめ』
/217ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3504人が本棚に入れています
本棚に追加