新入生歓迎式の日。

10/15
前へ
/217ページ
次へ
視界が動き、体が宙に浮く。 反射的に、百瀬さんにしがみつく。 あれ、これは所謂…姫抱きというやつじゃ…? 百瀬さんは戸惑うおれを余所に、どんどん走っていく。 この人、体力無限なのかな。 スピードは、落ちることなんてない。 百瀬さんの肩越しに後ろを見ても、すでに夏川さんは居なかった。 百瀬さんもその事に気付いたようで、おれを降ろす。 多分、おれが疲れている様子を見て姫抱きして逃げてくれたのだと思う。 「ありがとうございました。助かりました」 「いい。…じゃ」 また走り去っていく百瀬さん。 本当、色々謎な人だ。 すごい特技を持っていて、体力は底を尽きない。 でも、優しい人。 同じ学年だし、クラスは知らないがもった仲良くなれるだろうか。 いや、なりたい。 彼となら、穏やかな空気を楽しめる友人になれそうだ。 賑やかなのも、良いけれど。 「ここにいたのか」 耳に入ってきたのは、ご主人様の声。 「さぁ、俺に捕まれ」 ゲームのはずなのに、命令口調のご主人様に思わず従ってしまいそうになる。 それはおれがご主人様の犬だからだろうか。 「おいで、直紀」 魔法を掛けられた気分、そう言ったら大袈裟がもしれない。 でも、ご主人様の声、言葉にはその力がある。 逆らえない。 否、逆らわなくていい。 例えそれが、間違った道で行く先が地獄だったとしても。 正しい道で誰かが手をさしのべていてくれていても。 きっとおれは、ご主人様の方へ向かうのだろう。
/217ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3504人が本棚に入れています
本棚に追加