不狸ジェイル

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…………。 「どうじゃ。気分は最悪じゃろう」 わしは本を読んだままそいつに語りかけた。薄汚れた壁の部屋。 室内には簡単なベッドと、腰ぐらいの高さの棚が置かれているのみ、 カーテンも清潔とは言えないほど黄ばんでいる。 わしは、ベッドから1メートルほど離れた場所にパイプ椅子を設置して本を読んでいた。 口を開いた理由は、ベッドの上で寝ていた人物が目を覚ましたからじゃ。 そいつは上半身を起こすと、辺りをキョロキョロと見回した。 「ここは?」 動揺する事もなくそいつは冷静な態度で、わしに向かって訊いてくる。 「まあ、天国でも地獄でもない場所である事には間違いないな」 そう言うと、軽く舌打ちをしながらそいつはわしの言葉に返事をした。 「ってことは普通に現実ってことだろ」 「そうとも限らない。世の中ではお前さんが死んだことになっているかもしれないだろ」 わしは本を閉じて、そいつの方に視線を移した。
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