最初の女

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そもそも共用のトイレの建物があったなんて気づかなかった。確かにこれだけ大きな敷地であれば、それくらいはあっても何も不自然な事はない。 俺は時計を確認した。メールを受け取ってから45秒は経過している。あと45秒だ。 煙幕の効果の時間が本当ならば、様子を窺っている余裕は一切ない。 10秒なんてあっという間に終わりだ。これが最初で最後のチャンスと言われているような気がした。 迷っている時間はないな。どうせ縁側に隠れていても埒があかないのは明らか。 それならば捕まる覚悟で、奈良の文面を信じるしかない。 俺は奈良に言われた通り右の方を向いて、そのまま縁側のぎりぎりの部分まで這いつくばりながら進んだ。 感覚的にだけど、おそらくあと10秒ぐらいだろう。 俺は息を飲みながら、視界に映る光景を確認した。今は目の前に人は通っていない。 向こう側の敷地ではせわしなく人が行き交っていたみたいだが、ここはたまたま少ないみたいだ。
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