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そのかいもあってか、トイレまではスムーズに辿り着く事ができた。
女子トイレのマークを確認して、俺は飛び込むようにして中に入った。
短い距離なのに上がった息。俺は肩で息をしながら、両手をひざの上に置いて顔をあげた。
目の前には、涼しげな顔をした奈良が立っている。
「よかったじゃん。間に合って」
「お前なあ……」
奈良は俺から視線を逸らすと、目の前の個室を指差した。
女性用のトイレをまじまじと見るのはこれが初めての経験だが、個室が5個並んでいる。
どの扉も閉まった状態で、中が見えないようになっていた。
こんなところに逃げ込んで何になるっていうんだ。
「どうするつもりなんだよ……」
奈良はツカツカと歩き、一番右から二つ目の扉の前に立つと、落ち着いた口調でこう説明した。
「志斎は、誰よりも慎重な男と言ってもいいわ。何かあった時には絶対に助かる道をいくつも用意している」
話しの意図が見えない。俺の焦り具合に対して、奈良は不気味なほど落ち着いていた。
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