最初の女

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目の前には古びた台所。周囲を見れば、汚れたガラス戸の向こう側には季節違いの炬燵などが置かれた居間が見える。 「早くどいて」 奈良に急かされて、俺は慌てて梯子から床に足をつけた。 「なんだよ。ここ」 「見たら分かるでしょ。普通の家」 地下通路へ繋がる蓋を閉じると、奈良は近くに置いてあった冷蔵庫まで足を運ぶ。 「んんー! やっぱり重たい! アンタも手伝ってー!」 奈良は冷蔵庫を動かして、蓋の上に乗せようとしているようだった。 「ああ」 俺は奈良に言われたまま、冷蔵庫を一緒に動かして蓋の上に乗せた。 「よし。これで大丈夫。さ、早く行くわよ」 改めて見ると、築年数が古い家だという事が分かる。台所の流しの中には食器が積まれている。その横の棚には、ぼろぼろのお茶碗やコップや味噌汁のお椀などが綺麗に整えられている。不思議な空間だった。 ほこりも少ないし生活感がある気はするんだけど、誰も暮らしているような気がしない。
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