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やがて、その人影は、暗闇に目が馴れるとアイスショーのスポットライトにも見えなくもない、丸い薄明かりの中を横切り始める。
最初はゆっくりと、しかしだんだん加速しながら。
なぜか舞愛の胸も知らず知らず高鳴ってくる。
(……くる…!)
なぜか強く確信したその時、スケーターは軽やかに空を舞った。
飛距離がふわりと伸び、ジャンプの軸がきりりと締められる。
氷に吹い付くかのような、柔らかな着氷。
(四回転トウループ!)
そしてまた。
胸のすくようなスピードのある助走から、シュン、と氷を巻き上げる音がして真っ直ぐ高く、ジャンプの軸が巻かれる。
(四回転サルコウ!)
即座に4回転‐3回転の連続ジャンプ、
そしてまた4回転‐3回転‐3回転。
現役世界トップの男子選手でさえ難しいジャンプを、薄明かりの中、虹のような弧を描いて次々降りる。
いくら加速しても荒々しく氷を削る音がせず、
なおかつそのスピードでそれ自体が振り付けであるかのような美しいジャンプを跳んでは降りる。
……世界で何人も跳べないジャンプを、まるで息を吸っては吐くように。
舞愛は音楽も振り付けもないのに、シルエットだけの正体不明のスケーターの滑りにずっと魅せられていた。
こんな滑りのできるスケーターなんて、世界に一人しか知らない。
(…でも、でも、まさかこんな場所に…
いや、日本にだっているはずないのに)
(…これって…夢……?)
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