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「あの、清掃入るんッスけど?」
気づくと舞愛は、片手に数本のモップ、片手に業務用の掃除機を余裕でぶら下げた作業着姿の大柄な男に声をかけられていた。
「す…すいません、帰ります!」
ろくに顔を見ないまま、慌てて頭を下げてそのまま回れ右。
(…何やってるんだろう、私…っ!バカみたい!)
スケートリンクの出口に早足で戻る。
(…でも、今…ジャンプ跳んでいた人って一体…?)
幽霊や白昼夢(もう夜だけど…)でなければまだあのスケーターはリンクサイドにいるはずだ。
舞愛は変な動悸をおぼえながら、リンクの方を振り返った。
……しかし、あのスケーターらしき人物はどこにも見当たらない…。
リンクサイドには人っこ一人いなかった……さっきの清掃のバイト君らしき長身の青年を除いては。
少し流行外れじゃないの?という気がする、くるんくるんパーマの明るい金髪のセミロングを無造作に束ね、こちらの耳にはどこの民族の風習?!ってほどの数のピアスやらイヤーカフやらをチャラチャラさせて(おそらく、反対側の耳も同じ惨状…)。
作業着姿でモップをかけながら、ビリー・ジョエルの鼻歌を歌っている横顔。
舞愛は頭をガーン!とスケート靴のブレードで殴られた気がした。
デジャヴ、なんてもんじゃない!!
「NHN杯の※エキシビションプログラム、『Uptown Girl』!!」
【※エキシビション】元々は大会の入賞者によって行われる模範演技のこと。現在、大きな大会ではショーアップされて行われることが多い。
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