第1滑走・『天才少女と呼ばれて…』

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それから2シーズンほどが過ぎた。 シニアの世界…つまり、私達一般のファンがグランプリシリーズだ、世界選手権だ、冬季オリンピックだ… と注目する、フィギュアファンならずともテレビやネットでトップ選手の好不調、試合結果などが何となく目や耳に入る、大人の選手達の季節がやって来た。 大人の大会…、といっても、フィギュアスケートの一年は7月1日区切りであり、その時点で満15歳に達していればシニアの国際大会への出場資格を得る。 だからスケート関係者やファンの誰もが「桜井舞愛」のシニアデビューと グランプリシリーズ初出場での金メダル、世界選手権でも目の醒めるような四回転ジャンプを次々決めて表彰台、 …そんなワクワクするような活躍を期待していた。 しかし。 そのシーズンの主な…いや、ローカルな国際大会やジュニアの大会にさえ四回転ジャンプの天才少女、「桜井舞愛」のエントリーはなかった。 マスコミもファンも騒然となったが、シニアのシーズンが始まると日本人選手のメダル争いに一斉に話題が移ってしまい、 次のシーズンになるとほとんどのファンがその名前すら忘れている状態になった。 「ジャンプの練習中再起不能の怪我をおったのでは」 「激太りでジャンプに苦戦し地方大会ですら勝ち上がってこれないのでは」 そんな根拠のない憶測や噂がネットで時々囁かれたが、 大会毎に日本人選手のメダルの有無に一喜一憂するマスコミの間で「桜井舞愛」の名は二シーズンの空白で完全に消えた。 そして、フィギュアスケートファンとサッカーファンの冬が全く別であるように、 晩秋の都内の一角でにまた、全く別な時間を生きる若者たちの集団があった。 「お汁粉いかがですかぁ~」 とある高校の文化祭。イチョウ並木の両側に並ぶ出店にはお昼時とあってけっこうな列ができている。 「1年五組の教室で、ビンゴ大会やってますー!ふるってどうぞー」 「科学部名物の巨大迷路、我と思わん方はぜひ攻略を~」 呼び込みの生徒や他高生、地域の家族連れなどで賑わう、どこのイベントにもよくある光景。 「あら、あなた、スケートで新聞出てた女の子に似ているわね。何て言ったかしら、え~っと…」 「そうなんですか、私スケートとか、よく知らなくて」 さらっと素っ気なく返した売り子の生徒は、モデルみたいな長身の少女だった。
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