第1滑走・『天才少女と呼ばれて…』

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「熱いから、気をつけてね」 「ありがとう、お姉さん!」 客の女性の連れの子どもにつられ、身をかがめたまま別人のようにふわっと柔らかい笑みを一瞬見せる。 母親の方はわが子に愛想良くしてもらえたことて十分満足らしく、二人でお汁粉をすする場所を探しに立ち去った。 「舞愛、普段も笑ってたら美人度あがるのに」 後ろから声をかけたのは、高校のクラスメイトで親友の、板倉朱音(いたくらあかね)。 「何もないのに一日中へらへらしてたらバカじゃん?ムリに営業スマイルしなくていい、って言ったの朱音だよ?」 「そりゃそうだけど」 朱音は苦笑した。 「ね、ホントに売り子頼んでよかったの? 私はクラスの責任者だから仕方ないけど。部活の出し物ないからって、舞愛まで交替なしで張り付いてなくていいんだよ?」 「ん~、だって他にすることないもの。元々お祭り騒ぎって好きじゃないし」 「ハードボイルドだなぁ」 朱音はまた苦笑した。 「でも、スケートしたいって思ったりしないの? 私はよくわからないけど、今、競技シーズンなんでしょう? スケート部の子が言ってたけど、舞愛はホントはスゴい選手だっ…」 「はいはい、それ以上その話したらゼッコー!それに朱音、そろそろ榊原君のバンドのライブ始まるんじゃない?」 「ホントだ!どうしよう!」 「行ってくれば」 「そ、そう?じゃ、舞愛、お願いね!そろそろ園芸部の子が販売終わって戻っ…」 「はいはい」 榊原君、というのは隣のクラスの男子で朱音の気になる人らしい。 朱音はサロンエプロンのまま講堂にダッシュ。エプロンくらい外してけば…? ま、どうでもいいか。 恋愛、遊び、流行のファッション、身近なイケてる男子の話題、流行の音楽。 それらをネタに群れること。 全て、今の自分にはどうでもよかった。 「お汁粉いかがですかぁ~」 一応売り子らしく呼び込みの声を掛けてたら、ポケットのケータイのバイブが鳴る。 『重要~☆』ってタイトルの、別な女子からの今日の打ち上げ連絡。 ホント、どうでもいい。 スケートや試合や、自分の過去のメダルと同じくらい。
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