あの子の影

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「ポットとカップまであんのか……」 「ここは私の楽園だから」 スプーンでコーヒーをかき回す。 窓の外を見ると志穂のクラスが学校から出てきた。 体育の授業のようだ。 体育か……。 運動神経は悪いけど、体育は好きだ。 楽しそう。 そう思ってしまった。 私は楽しんではいけないのに。 私は、志穂の影だから。 泣きそうになっていると紺野大和が私の目をふさいだ。 おい。 なんの冗談だ、こいつ。 「離せ」 「亜莉紗、一緒に教室行こーよ」 「うるさい、いかない、意味不明」 「なにそれ。一人しりとり?」 紺野大和が吹き出す。 私は紺野大和から離れてコーヒー片手に本を開いた。 「亜莉紗が勉強してる!?」 「今度補習があんの」 「補習?」 「授業受けなくても補習受ければ留年しなくて済むって言われたから、毎回補習受けてるの」 そう言うと紺野大和は私の前に来て真剣な顔で私を見た。 「その補習って、誰でも参加できるの?」 「まぁ、勉強好きそうな人は何人か居るから、誰でも参加できるんじゃないの?」 「じゃあ、そこに行けば亜莉紗と授業受けれる……」 「好きこのんで来る場所じゃないでしょ?補習だよ?」 「でも、少しでも長く亜莉紗と居たい」 真っ直ぐ目を見て言う紺野大和から目が逸らせない。 不覚だ。 紺野大和にドキッとした。 私は少し赤くなって咳払いをした。 「あんたの好きにすれば?」 「やった!!」 ガッツポーズの紺野大和が可愛いと思ってしまった自分が憎い。 ダメだ。 私は、恋をしてはいけない。 志穂より幸せになってはいけないんだ。 そう思うと不思議と冷めてきた。 そしてコーヒーを一口飲んだ。 紺野大和はいまだに出ていく気配がない。 .
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