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「そんなに萌絵が好きで……、そんなに萌絵に会いたいなら……、私と別れて堂々と会いなよ。
そしたら、影でこそこそする必要もないでしょ?」
昨日私は、彼にそう言った。
彼の家の近くの喫茶店で、大好きだった彼に自分から別れを告げた。
「ごめん……、サクラ」
彼は、本当に申し訳なさそうに、震える声で項垂れた。
彼の名前は、対馬 真治( ツシマ シンジ)
大学時代の同じ学部の同級生だった。
出会ってから6年、付き合ってからは2年半。
あんなに大好きだったはずなのに、悲しいはずなのに、不思議と涙は出なかった。
そう、私はそう言う可愛気のない女だ。
ここで泣いたからと言って、どうにかなるとも思えないし……。
ましてや、自分から別れ話をしておいて泣くなんてどうかと思う。
それに、何となくこうなることは、心のどこかで分かっていたのかもしれない。
でも、一つだけ心残りと言えば……
とうとう最後まで真治は、私のことを下の名前では呼んでくれなかった……。
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