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・・・・・・目蓋の裏に、淡い日の光を感じた。
柔らかい光、どうやら時刻は既に夕方へとさしかかっているようだった。
ずいぶんと長い間眠っていたらしい。下敷きにしていた腕が、イヤな疼痛を発している。
頭を起こし、鈍い痛みに顔をしかめながら眼下の景色を眺める。
どこまでも、蒼。
暗い、濃紺の色で染められた大海が果てしなく広がっていた。
ただ一つ、今にも水平線の向こう側に落ちようとしている夕日だけが、蒼一色の世界をオレンジ色に塗り替えている。
いつもの通り、見慣れた光景。
生まれたときから、この景色だけは変わらない。どんなトコロに行こうと、まるでこの世界にはこの景色しか存在してないのだといわんばかりに。
まぁ、それもある意味では間違ってはいないのだろうか。
ここは海で染められた世界で海に飲み込まれた世界なのだから。
「あぁ、面倒くさい」
俺は、穏やかで変わらないこの世界が好きだった。
例え日々に刺激は少なくても、のんびりと過ぎていく日常が。
だというのに、今は変わらないということにただ焦り、苛立ちすら感じている。
故に、こぼれ落ちた言葉だった。
「だからって、日々のお勤めをさぼるのはいけないことだと思うけどなあ、私」
ふと、背後から聞こえたのは慣れ親しんだ少女の声。夕日に照らされ、背後から薄く伸びた影が見慣れたシルエットを創る。
首を後ろにひねると、口元に苦笑を浮かべた少女が立っていた。
小柄な体格、燃えるような色をした真っ赤な腰まである長髪、幼い顔立ちと、それに見合わぬ大人びた表情。俺の幼なじみ、名前は李 雪花。
中国と日本人のハーフらしいのだが、今となってはそんな情報はどれだけ正確なのかわかったものじゃ無い。
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