プロローグ

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 人間がその版図としているのは、二千平方キロメートル四方の巨大な潜水艦五つのみ。  この世界の中ではいくつもの人種が混ざり合い、国際色豊かというよりは、むしろ混沌とした様を見せている。 俺や雪花も、もはや何人なのかと聞かれても首をひねるような有様だ。  最も、そもそも自分の血を誇るような、所属する『国』などもはや存在しないのだが。 「……あー、さぼってるわけじゃ無いぞ。これはだな、自主的で高度な判断による休養とかそういうモノであって――」 「言い訳しない。何だって君はこうも悪ぶれようともしないのかな、白い目で見られるのは君だけじゃ無くて、私とか美紀さんも何だよ?」  溜息とともに、俺の隣に腰を下ろす雪花。  ともに見つめるのはとおい、とおい海の果て。  その際限なき水平線を、睨み付けるように雪花は目を細める。 「お兄さん、やっぱり帰ってこないって」 「……そっか」  2週間前。俺の兄、十川 陣は失踪した。  理由は分からない。  そんな素振りがあったのかと聞かれれば、微妙なところだと思う。  普段通りではなかった。何かがおかしかったとは思う。  けれど、それはこんな事になってから思い返してみて初めて、ああ、そういえば――と思い当たる程度のものだ。 「誘拐って線もなさそうで、たいした理由も思い当たらず、何か悩んでいた風でもない。ほんと、こんなことする人だったかなぁ。お兄さん」 「さあな、兄貴のことだからそのうちひょっこり戻ってくるかもしれないぞ。『心配かけてごめんね――』なんつってさ」 「あはは、まあその辺つかみ所のない人だったしね。もっとも、ほんとにそんな態度で戻ってきたなら、顔面ぶん殴ってやるんだけど」  二人して笑い合う。  ほんの少しの期待と、胸を塞ぐ不安を押し隠して。  日はいよいよ完全に落ちようとしている。  ここは、海に覆われた世界。  濃紺から漆黒へと色を変えたその水面は、そこの亡い闇のように見えた。
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