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「……ほら、起きて」
体が揺すられるなと、感覚の鈍い頭が自覚した。
ナニカが、完全に沈黙した脳機能に、強い刺激を外部入力しているような。
「起きてってば、授業終わったよ」
目蓋の裏が、だんだんと熱くなってくる。
自意識が浮上し、回復するのが分かったが、それでも無意識の惰性が、もう一度眠りの世界引きずり込もうと誘惑してきている。
「だから――起きなさいッ!」
パ―――ン!という衝撃は、痛みよりもむしろ音の攻撃となって、強制的に半覚醒の眠気眼をたたき起こす。
「うおおおぉぉぉぉぅ!?」
跳ね上がった頭が最初に捉えたのは、怒りに眼を上げる幼なじみの姿だった。
なんだか、真っ赤な髪がより深くなっているような錯覚がする。
「・・・・・・あのさ」
「言い訳は通用しません」
・・・・・・おおぅ、にべもない。
今度ばかりは、ちょっとやそっとじゃ許してはもらえそうにもない。
私、怒ってますよと全身で表すその姿は、母親よりも母親らしく、腰に手を当てた姿が異様に似合う。
「本当は」
「ハイ」
「本当は三十分ぐらいは説教かましてやりたい気分なんだけど・・・・・・美代子さんが火急の用事だっていうし」
仕方ない、とでもいう風に雪花は溜息をつき、腕を解いて怒りの表情を微かに和らげる。
たったそれだけの行為でも、その体躯が小柄になったように見えるというのは、これはいったいどのような魔法なのだろうか。
「早く出ようか。車、もう表に着いてるよ」
「・・・・・・火急の用事って、なんなんだ?」
知らないよそんなこと、と雪花は床においていた教科書(電子ペーパー)を拾い上げ、窓の外を指さす。
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