一章 春―①

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「とにかく、美代子さんの怒りボルテージがこれ以上溜まらないうちに行った方がいいと思うな。君が起きるまでにもう十分は経ってるよ?」 「げ――」  思わず、口の端がひきつる。  それはマズイ。  あの女は、兎に角待たされることを嫌う。  人のことを待たせるのは得意技のくせして、だ。    そう、あいつのことを一言で表すのなら女王様という言葉がふさわしい。  なんせ、私が世界の中心だとか本気で思っているような節がある。  そんなことをいうと、あなたの母親でしょうに――などと、あきれたように雪花には返されるのだろうが、俺自身はあいつのことを母親だと認識したことはない。  精々が、年の離れた姉程度。実際、血は繋がっていないのだから割と正しい認識ではないかと思う。  傲慢なところをどうにかすれば、結構スゴい奴だと認められるのだが。  これは、兄貴と俺との共通認識だ。  ともかく、鏡の国のアリスのウサギのように、俺は這々の体で教室から駆けだした。
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