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「なぁ伊月、私言ったよな?時は金なり、私の時間奪ったんだったら賠償金払いなさいって」
「会うなりこの横暴な台詞。お元気そうで何よりでございますね、おかーさま?」
養母にして、姉貴分。十川美紀は、いつものごとく堂々とした態度で佇立していた。
ホットパンツにTシャツという、その出で立ちは実に爽やかで、まだ寒さの残る春先だということを一瞬忘れさせる。
「ま、とにかく乗りな。伊月も雪花にも関係のある話だ、移動しながら話そう」
硬質な黒に塗られたオープンカーは、ほぼ無音に近い唸りをあげている。
旧時代の車とほぼ同じ設計思想で作られた、美紀の愛車。その鋭角なフォルムは、なるほど確かに格好良い。
デザイン性というモノがあまり重視されなくなっているこの時代において、センスの良いものを持っているのは結構なステータスだ。
この閉じられた世界で、何よりもその停滞と衰退を余儀なくされているのは、芸術やエンターテイメントの世界らしいから。
「ほら、雪花も行くぞ」
「――ん」
座席は、相変わらずの乗り心地であった。
皮張りのシート特有の背筋に伝わる張りの感触と、詰め込まれた綿の感触が心地良い。
緩い振動が伝わってくる感触を楽しみながら、滑らかに動き出した車の上から首を出してみる。
「な、せっかくだから港市街の方廻っていこうぜ。今日、確か《EAST》の船が近くを通るって話だし」
「うん、今日はいい天気だしね。ドライブするにはいい感じかも。一週間後にはまた潜行航行に戻るんだし、今のうちにでも外の空気を味わっておきたいな」
「オーライ、じゃ一般道で行こうか」
徐々にスピードを増していく車は、心地の良い風を送ってきてくれる。
空気はもう冬の名残を残しておらず、暖かな陽光が俺たちに夏の訪れを感じさせた。
この分なら、兄貴の仕事が終わるのも早くなるかもしれない。袖を膨らませる風はそんなことを感じさせるには十分で、俺は久しぶりに会う血の繋がった兄弟との再会に胸を膨らませていた。
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