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……俺たちが暮らしている潜水艦は、全長二千平方キロメートルにもなるもはや常軌を逸したサイズの潜水艦だ。
ちょうど、ラグビーボールの上部を切り取ったような形をしており、その中に都市部が詰まっているような構造になっている。
切り取られた上部を覆っているガラス張りのドームは、水上航行中のみ解放され外の空気を存分に味わえる。
許可を取れば海上をボートで遊ぶことも可能で、ここぞとばかりに《CENTRAL》の住人たちは狂ったように遊び回っているのだ。
潜行航行に戻ると完全にドームは閉じ、人工の空がその内側に点る。
その映像美も俺は嫌いではないのだが、こうして実際に外に出て味わうさわやかな風はやはり特別なものがある。
スピードに乗ったオープンカーが幅広い道路を走り抜けると、空がまるで流れるように前から後ろへと抜けていく。
存分にその開放感を味わいながら、そういえば――と、火急の用事とやらがあったのではないかと思い出す。
さんざん急かしていた割には、いつまでたっても話を切り出さないのが不思議なところだ。
だいたい、呼び出したのが美紀だという時点でやっかいなのが容易に予測できるというのに、こうしてじらされると恐怖が加速度的に増していく。
バックミラー越しに美紀の表情をよく見ると、どことなく堅くなっている気がする。
だんだんと、久しぶりに外の空気を味わえる喜びで浮かれていた心が冷え込んでいくのが分かった。
錯覚だろうが、車内に降りる空気すら少し落ち込んでいく気がする。
「ね、結局話ってなんなの」
雪花が、そう切り込んだ。
今度は、目に見えて空気が冷え込むのが分かる。
春の温かい陽や、さわやかな海風は依然としてそこに在るままだというのに、体感では真冬のそれに触れている気がして、肌に淡く鳥肌が立った。
雪花の表情が少し引きつったのが見えた。
大人っぽいが、少々愚直なまでに安定を求めている節のある雪花は、こういう空気がひどく苦手だ。
責任感も強いから、いざとなればこうして踏み込むこともするのだろうが、しかしその態度は俺は頼りにならないと言われているようで、なぜだかひどくしゃくに障る。
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