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その渇きが良太郎を、強制的に鬼から人間の姿に戻させた。
「血が、血が欲しいッ……サク、サクヤッ!……欲しいッ……サクヤが欲しくてッ、欲しくて欲しくて堪らないッ!……ガァアアアアア!?」
余りの痛みに手で胸元をギュッと押さえ、膝を着く良太郎は半ば錯乱している。
「クソッ、ガァア!?クソッ!サクヤ、サクヤァ!何処だッ!?……ガァアア!クソがッ!鎮まれ!バカッ!サクヤはここにいないだろうがッ!?」
転げ回る良太郎の姿は、鬼と人を忙しなく往復していた。
それが、どれだけ今の彼が不安定かを良く示している……。
「……操血、静鬼ッ!?アハハハハッ!それでも、良いやッ!血は、最高に美味かったし、何より、綺麗だッ!あぁあああ!食いてぇ食いてぇ食いてぇ!食わせろ食わせろ何でも誰でも良いから食わせやがれってんだよクソガァアアアアアアア!!!」
最早狂気……良太郎は、間違いなく狂っていた。
これこそ彼の、鮮血悪鬼の力の代償である……。
出鱈目な力の代償は、余りにも大きすぎた……。
心臓に核結晶を直に取り込んだ良太郎は、心臓はおろか身体の中を核結晶に殆ど侵食されてしまったのだ。
故に、彼は従来人間が必要とする食事や休息は必要ない……核結晶に蓄えられた保有血液という燃料が有る限り、再現無く動き続けられた。
そう……保有血液が『有る限り』は。
「グッ、ガァアア!?……ハッ、ハッ……ハァー……畜生……チク、ショウッ……!……父さん、母さん……!……グゥゥゥッ!!!」
この飽食の世、どれだけの人間が『飢餓』の感覚を知っているだろう?
痛みと苦しみ、沸き上がる苛立ちと悲しみ……そして、襲い来る幻覚。
「俺をッ、そんな目で俺を見るなぁ!?……グッ、クッ……助け、られなかった……挙句、俺はこんな化物に……くっ、うううッ……!」
化物であれ、生きている……当然、燃料たる保有血液は徐々に消費されていくのだ……力を行使すれば尚更の事。
そうして保有血液が不足すると、彼は飢餓状態に陥る。
その肉体は、精神は、酷く不安定になってしまうのであった……。
その先に待つのは、衰弱……そして、恐らくは……死。
故に、彼は吸血する……自らの命を繋ぐ為に……他者の生を食らうのだ……。
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