40人が本棚に入れています
本棚に追加
「……あ?……ハハハッ、悪い悪い忘れてた……お前が目の前にいるのをよ!」
そんな良太郎は、漸く思い出した。
目の前に転がる、分離した哀れな敗者の存在に。
「血、血だ!アハハハハッ!今夜はご馳走だっ!アハハハハハハハハハッ!!!」
目を見開き、その奥に狂気の光を宿した良太郎は飛び付いた。
飢えた獣の様に、俊敏、獰猛に、死にかけた絶望鋼鬼の身体に噛み付いた。
そして、溢れ出る血を吸いながらその肉を噛み千切る。
「ハハハハハハッ!美味い!美味いぞ!見た目は悪いが最高に染みるぜぇええ!!!ハハハハハハッ!!!」
噛み千切った肉塊を、まるでガムでも噛むように音を立てて咀嚼し、良太郎は嬉しそうに叫んだ。
その目から、ボロボロと大粒の雫を溢しながら……。
「あぁ……染みる……染みていく……血液が……命が……」
小さく言葉を溢し、味のしなくなったそれを口から吐き出して、良太郎は再び肉塊に歯を突き立てた。
「あぁ、クソッ……美味い……無茶苦茶美味いぜ畜生が……ッ!」
ピチャピチャと音を立てて、涙を溢す良太郎は血を啜る。
彼は、確かにその身を化物に変えてしまった……しかし、その心は未だ人間のままだった……。
人間で、あろうとしているのだ……!
だが、現実は残酷である……彼の身体は、意思とは裏腹に血を啜り続けた……欲望のままに、その飢えを満たすために……。
「………………ふはぁー」
良太郎は、既にピクリとも動かなくなり、物言わなくなった絶望鋼鬼の身体から口を放した。
思う存分壊し、血を啜った充足感からか、彼の口からは息が漏れる。
恍惚とした表情で虚空を見つめ、余韻に浸っていた良太郎の耳が音を捉えた。
ビキッ、ビキビキッ……!
渇いてひび割れる様な音に意識を戻され、咄嗟にそちらへ顔を向ける。
良太郎の目に映ったのは、たった今食い散らかした肉塊の頭部……そこに輝く絶望鋼鬼の核結晶だ。
「……絶望鋼鬼の、核結晶か……随分と綺麗な金色だな……」
すっかり夢見心地の良太郎は、興味なさげにそう呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!