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「神鬼(しんき)様……報告に参りました」
暗闇が支配する窓もない一室……透き通った美しい声が響く。
奥行きすら曖昧な部屋の中央辺り、不意にスポットライトが声の主の姿を照らし出した。
その人物は白い狐面で顔を覆い、およそ140センチ前後と思われる細身の身体を巫女装束で包んでいる。
肩ほどまで伸びた艶やかな黒髪は綺麗に切り揃えられ、格好も相まって何処か神聖さを感じさせる程だ。
だが、この人物は決して神聖な者では無いだろう……何故なら!
「待っていたぞ『灼熱狐鬼(しゃくねつこき)』……では、報告を聞こう」
低く鋭い声が響くと、狐面の人物の前にあったモニターが点灯。
そこに映されたのは、真っ白な背景に『百鬼夜行』の文字!
そう!ここは百鬼夜行のアジト!そして、狐面の人物は紛れもない鬼!百鬼夜行が四天王の一人、灼熱狐鬼なのだ!!!
「キッキッキッ……はい、それでは申し上げます」
神鬼と呼ばれるモニターからの声が掛かると、灼熱狐鬼はその邪悪さを窺わせる笑いを上げて報告を開始した。
「我ら四天王の一人、絶望鋼鬼は落ちました。神鬼様の予測通りです」
「だろうな……あの老害では真の適合者に勝てるはずもあるまい」
「キキッ、元より自らの実力を過大評価していた愚か者でしたからね……頭に埋め込んだ核結晶に脳を食われたのでしょうか?」
「ふっ、かもしれんな……さて、報告を続けろ」
愉快そうに続きを促す神鬼の声に、灼熱狐鬼は美しい声で応えた。
「はい、絶望鋼鬼の身体はバラバラに解体され、食い散らかされておりました。状況から推測するに最上良太郎……鮮血悪鬼に捕食されたと思われます」
「成る程、実に素晴らしい凶暴性だ」
「はい、ですが問題が一つ……申し訳ありません神鬼様」
そう言うと、行儀良く両手を前で合わせお辞儀をする灼熱狐鬼。
「絶望鋼鬼の核結晶を回収出来ませんでした」
「…………ほぅ」
それを聞いた神鬼は、短く言葉を返した。
モニター越しなのにも関わらず、神鬼の恐るべき殺気が部屋を満たす。
あまりの殺気に、まるで闇の中で無数の化物が蠢いている様な、そんな錯覚さえ抱かせる空気だ……。
現に、灼熱狐鬼は下げた頭を上げられずにいる……。
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