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その後、神鬼が手短な労いの言葉を二人に向けて掛けると、何の前置き無くモニターの映像は消える。
それは、唐突ではあるがこの会合の終了を意味していた。
「んんー……終わった終わったぁー」
操血静鬼は、モニターが消えると直ぐ様立ち上がり、軽く伸びをしながら踵を返す。
「神鬼様ぁ……」
「ほらほら、狐鬼ちゃんも行くわよー?こんな暗い部屋で甲斐甲斐しく待ってても、ご主人様は戻ってこないわよ?あの方は忙しいんだから」
横で未だモニターを見上げる灼熱狐鬼に声を掛け、操血静鬼は歩き出した。
「ふんっ……言われなくとも分かっている……」
小さく舌打ちをした灼熱狐鬼は、不満そうに後へ続く。
姿を照らしていたスポットライトはやがて消え去り、部屋は再び完全な闇に支配された……。
ガチャリ。
音を立て、扉が開かれる。
暗闇を潜り抜け、操血静鬼は光溢れる世界へと足を踏み出した。
「んー……相変わらず変な感じ……この感覚ばかりは慣れないわ」
顔をしかめた彼女は、誰に無く呟いて周囲を見回す。
所々悪辣なペイントが施された灰色の壁、溢れるゴミで蓋が半開きの大きなゴミ箱、捨てられた腐りかけの食料に食らい付くカラス……ここが裏通りなのは、誰でも想像がつくだろう……。
「はっ、俗物め……神鬼様への忠誠心が足りぬのだ」
その背に声を掛けたのは、同じ扉より出てきた灼熱狐鬼。
振り返った操血静鬼は、二、三度瞬きした後、不思議そうに首を傾げる。
「……狐鬼ちゃん、何でいるの?」
「?……貴様が行くぞと声を掛けたではないか」
二人の間に、微妙な沈黙が流れた。
今度は、灼熱狐鬼が首を傾げる。
「……僕に何か用があったのでは無いのか、貴様は」
「……あぁー、そうねぇー」
灼熱狐鬼の視線を受け、操血静鬼は言葉を濁しながら開きっぱなしの扉の向こうに視線を逸らした。
大小様々な段ボールが積まれた隙間から、開店準備に追われる従業員が忙しなく動き回っているのが見える。
「焦らすな、僕とてそれほど暇では無いのだ。用がないのなら仕事に戻る」
後ろ手に扉を閉めた灼熱狐鬼は、巫女服より飛び出した小さく白い手で狐面の位置を微調整しながら促した。
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