石橋を叩いて渡れ .

2/15
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
俺の前には妙な男が座った。 年の頃は俺と変わらず。 まぁ…クラスメイトだから、当たり前なんだけど。 「石橋春俊と申します」 良く通る声優みたいな低い声で、その妙な男は名乗った。 些か華奢な部類に入る俺とは真逆な体格。 女子が囁くくらい整った顔立ち。 「趣味は鉄道です」 囁いた女子がドン引いた趣味。 これから始まる新しい生活に向けて、自分はオタクですって披露するなんて。 見た目は申し分ないのに、勿体無いなぁと。 余計なお世話だけど俺は思った。 「先生も結構鉄道好きだぞ」 「そうですか、よろしくお願いします」 「じゃあ…次」 パンチの効いたヤツの次ってイヤなんですが。 だって俺、人見知りなんだよね。 「鶯谷正です」 あ…振り向いた。 だよね、ちょっと珍しい名字だもんね。 駅名にあるし。 「趣味は…特にないけど、」 サラサラの黒髪にそぐわない茶色瞳が俺を見つめる。 濃いのか薄いのか分かんねーヤツだな。 「音楽は詳しい方だと思います」 …なんか、視線が外せないんですけど。 あ… 笑った。 笑うと全然印象変わるねお前。 クラスメイトのおざなりな拍手を合図に腰を下ろす。 緊張しぃーな俺の心臓が大きな音を立てる。 ゆっくりと向き直った背中。 『胸板厚すぎだろ』 なんとなくムカついた俺は、脇腹を軽くつついた。 .
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!