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俺の前には妙な男が座った。
年の頃は俺と変わらず。
まぁ…クラスメイトだから、当たり前なんだけど。
「石橋春俊と申します」
良く通る声優みたいな低い声で、その妙な男は名乗った。
些か華奢な部類に入る俺とは真逆な体格。
女子が囁くくらい整った顔立ち。
「趣味は鉄道です」
囁いた女子がドン引いた趣味。
これから始まる新しい生活に向けて、自分はオタクですって披露するなんて。
見た目は申し分ないのに、勿体無いなぁと。
余計なお世話だけど俺は思った。
「先生も結構鉄道好きだぞ」
「そうですか、よろしくお願いします」
「じゃあ…次」
パンチの効いたヤツの次ってイヤなんですが。
だって俺、人見知りなんだよね。
「鶯谷正です」
あ…振り向いた。
だよね、ちょっと珍しい名字だもんね。
駅名にあるし。
「趣味は…特にないけど、」
サラサラの黒髪にそぐわない茶色瞳が俺を見つめる。
濃いのか薄いのか分かんねーヤツだな。
「音楽は詳しい方だと思います」
…なんか、視線が外せないんですけど。
あ…
笑った。
笑うと全然印象変わるねお前。
クラスメイトのおざなりな拍手を合図に腰を下ろす。
緊張しぃーな俺の心臓が大きな音を立てる。
ゆっくりと向き直った背中。
『胸板厚すぎだろ』
なんとなくムカついた俺は、脇腹を軽くつついた。
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