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「…………」
私は空間にふわふわと浮かんでいた。
辺り一面には、びっしりと文字が刻まれ、合間、合間に窓のような物が見えている。
軽く、腕や足を動かしてみると、ゆっくりとだが確実に動いている、動くいうより、泳ぐとほうが正しいのかもしれないけれど、、私はそっと文字に触れた。
頭の中に、断片で抽象的なイメージが駆け抜けていく。
「ああ、今日はあの人、こんなこと考えてたんだ」
クスクスと笑う、私を一言で表すなら『物語』である。
物語を創造し、空想する、その瞬間に生まれる残り香が集まった物、名前はなく、断片で抽象的な、『物語』が私だ。
指で、そーっと文字をなぞる、様々なイメージが私に溶け込み、私の一部になる、語られない物になっていく、抜け落ちて、削り取られていく、断片の有象無象の寄せ集めだけれど、胸の奥底がちくちくと痛む。
私という『物語』はどうして生まれたのだろう?
物を語らない、『物語』なんて不要なのに、人間のような感情なんて必要なのか?
「わからない」
一の思想も。百の言葉も。千の知識も。万の価値も。答えを見出す材料にならない。
「主人公なら、わかるかな」
物語を動かす、主人公に。
「私も、主人公になれたらいいのに」
『物語』ではなく、『主人公』になれたらいいのに。
私は『物語』のままだ、いつまでも、これからも、断片で抽象的な有象無象な残り香の、物を語られない『物語』、この空間を漂いながら、私は静かに願う。
「いつか、主人公になれたらいいな」
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