5人が本棚に入れています
本棚に追加
――★――★――★――
銃弾が、雨霰と降り注ぐ。夜の街に銃声が響き渡った。
「殺せっ! 絶対に逃がすなっ」
下顎の贅肉を揺らしながら、銃声に負けないくらいの大声で男が言う。
それに反応して、銃弾の数が増えた。
追われる影は、雨のように降ってくるそれらをすべて躱し、黒いハットを深くかぶりなおした。
一瞬だけ立ち止まり、そして一気に飛び上がる。
突然のことに銃声が途絶えた。
影は一瞬でマシンガン部隊の背後につき、その後ろにいる肥った男に向かっていく。
常人ではありえないスピードで、護衛たちの隙間を駆け抜けていった。
「ひ、ひいぃ」
男は、先ほどの勢いをなくし、隣にいる黒いスーツの男にしがみついた。
「あぁ」
「ぐっ」
男の目の前で、次々と護衛たちが倒れていく。
男は、腕に伝わっていたはずの暖かさがなくなっていることに、ふと気づいた。
そちらを見ると、掴んでいた護衛はぐったりと倒れていた。
「お、おい……」
その護衛を揺すり起こそうとしたが、直後背後に冷たい気配を感じた。
そろそろと振り返ると、黒いハットに黒いフードコートを着た人物が立っている。
「た……助けてくれ……。命だけは……」
男は、必死に声を絞り出して人物に懇願した。
しかし。
「……もう遅い」
人物は低く小さな声で、言う。
そして、何のためらいもなく白い銃の引き金を引いた。
男は、断末魔の声をあげることもなく、その場に倒れる。
肥った男の胸から、血が広がっていった。
人物はそれを足元に見ながら、かぶっているハットをそっと押さえて、上を見上げる。
ちょうどそのとき、薄雲が晴れて、月が出た。
大きな満月だった。
その月が人物の顔を照らし出す。
まだ、青年になりきっていない、端正な少年の顔。
少年は、そっと呟いた。
「俺は、何のためにここいる?」
――★――★――★――
最初のコメントを投稿しよう!