二年前

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――★――★――★―― 銃弾が、雨霰と降り注ぐ。夜の街に銃声が響き渡った。 「殺せっ! 絶対に逃がすなっ」 下顎の贅肉を揺らしながら、銃声に負けないくらいの大声で男が言う。 それに反応して、銃弾の数が増えた。 追われる影は、雨のように降ってくるそれらをすべて躱し、黒いハットを深くかぶりなおした。 一瞬だけ立ち止まり、そして一気に飛び上がる。 突然のことに銃声が途絶えた。 影は一瞬でマシンガン部隊の背後につき、その後ろにいる肥った男に向かっていく。 常人ではありえないスピードで、護衛たちの隙間を駆け抜けていった。 「ひ、ひいぃ」 男は、先ほどの勢いをなくし、隣にいる黒いスーツの男にしがみついた。 「あぁ」 「ぐっ」 男の目の前で、次々と護衛たちが倒れていく。 男は、腕に伝わっていたはずの暖かさがなくなっていることに、ふと気づいた。 そちらを見ると、掴んでいた護衛はぐったりと倒れていた。 「お、おい……」 その護衛を揺すり起こそうとしたが、直後背後に冷たい気配を感じた。 そろそろと振り返ると、黒いハットに黒いフードコートを着た人物が立っている。 「た……助けてくれ……。命だけは……」 男は、必死に声を絞り出して人物に懇願した。 しかし。 「……もう遅い」 人物は低く小さな声で、言う。 そして、何のためらいもなく白い銃の引き金を引いた。 男は、断末魔の声をあげることもなく、その場に倒れる。 肥った男の胸から、血が広がっていった。 人物はそれを足元に見ながら、かぶっているハットをそっと押さえて、上を見上げる。 ちょうどそのとき、薄雲が晴れて、月が出た。 大きな満月だった。 その月が人物の顔を照らし出す。 まだ、青年になりきっていない、端正な少年の顔。 少年は、そっと呟いた。 「俺は、何のためにここいる?」 ――★――★――★――
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